NPO法人社会教育推進 さくら会

救急救命普及活動

救急救命法 普及への想い

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 ひと冬前の、小雪のちらつく寒い師走のある夕暮れ。
 おろしたての裏地がお洒落なイブ・サンローランのオーバーコートを着て、久しぶりの友との夕食を楽しみに、弾む思いでJR錦糸町駅に降り立った。
 人だかりがしていたが、先を急ぐために、そのまま通り過ぎようかと思った。けれども、誰も手を貸している様子が見えなかったので、時間を気にしながら近づいてみた。
 見ると30代の女性が車内で意識を失って電車からホームに叩き付けられた状態で、血を流して倒れこんでいた。
 直ぐに持っていたハンドバックを枕にした。そして、一瞬ためらったが、新しいオーバーを掛けて暖かくした。
 ギャラリーの立場で、傍らでパニックになって騒いでいたキャピキャピギャルに、そっと「怪我人が心配するから励ましてね。それから、直ぐに駅員に救急車を手配するようにお願いね。」と言うと、その娘はハッと気がついて、かもしかのように飛んでいった。ハンカチで止血をすると、直ぐに血を吸って、絞れるほどになってしまう。困っていると、男性が真っ白いタオルをくれた。有難かったが、重ねたタオルもみるみる鮮血に染まった。
 これは、ただならぬ事故である。周囲の人々は「うわ〜。すげぇ血だな」とか「もろ顔を打ったんだな。こりゃひどい!」とか悲惨な状態を口にしていたが、その声を打ち消すように、静かな声で「大丈夫よ。少し怪我をしているの。直ぐに救急車がくるから、大丈夫、大丈夫。それより口の中の物を遠慮せずに、ここに出してね。」と語りかけた。歯が4本、手の平の上に、もぞもぞと吐き出された。
 野次馬根性で覗き込む男の煙草の灰が、その女性の髪に落ちた。それを払いのけて、「かわいそうに・・・」と心で思いながら、その髪を優しくなでた瞬間!! とても、不思議なことが起きた。
 胸の辺りに物凄く熱い大きな光の玉の様なものが、ふくれあがってきて、周囲に溢れんばかりに満ちた時、見知らぬその女性は、わたくしの分身となったような気がして、他人ではなくなった。一体となった。
 やがて、救急隊員が到着し、その女性は運ばれていった。後に残ったキャピキャピギャルとわたくしは、お互い同志としての誇りと尊厳を持って、互いに笑顔を交わし握手をして別れた。首筋を伝った血で染まったハンドバックもサンローランの新しいオーバーも、もう惜しくはなかった。
 後日、アゴの骨、骨折と歯の手術のためお腹の赤ちゃんを諦めなければならなかったと、御礼と共に旦那様から御連絡を頂いた時、サンローランのオーバーを一瞬ためらった自分の心の狭さが、小さなトゲとなって心に痛かった。
 でも、あの息を止めるほどの大きな光の正体は、いついつまでも、わたくしの心を勇気づけている。
 その時から無意識に救急救命法の普及活動に手を挙げていたのかも知れない。

上記の文章は平成16年6月22日に、記しました。それから、7年経ってやっと、救急救命法、普及を実施することができました。その仕事に携われることを、本当に有難く感謝しています。愛する人の命を守るため、救急救命トレーニングに是非ご参加下さい!

NPO法人 国連支援交流協会支部 リカレント エデュケーション ネットワーク
理事長 稲垣 説子
協賛:NPO法人社会教育推進 さくら会

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